「ガスライティング」とは、「正気を失った」と思い込ませ、相手を精神的に追い詰める心理的虐待の一種で、英米で近年流行し、注目度が高まっています。

今回の記事では、

  • 映画「ガス燈」はどんな映画なのか?
  • 映画「ガス燈」はどう評価されたのか?
  • 映画「ガス燈」はなぜ「ガスライティング」の起源と言われているのか?

これらについてまとめています。

映画「ガス燈」は、単に名作というだけでなく、社会的にも重要な映画です。この記事で興味を持たれた方は、ぜひご覧になってください。

映画「ガス燈」の基本情報

映画「ガス燈」のあらすじと、監督や主要キャストをここでは紹介したいと思います。

どんなストーリー?:「ガス燈」のあらすじを簡潔に

19世紀末のロンドンの話です。ポーラ(イングリッド・バーグマン)は、イギリス・ロンドンで人気歌手である叔母アリスに育てられましたが、ある日叔母が何者かに殺害されます。犯人は見つからないまま、ポーラはイタリアに音楽留学します。

イタリアの音楽教室で歌手になるためのレッスンを受けるポーラは、教室で知り合ったピアニストのグレゴリー(シャルル・ボワイエ)と恋に落ち、歌手を諦め、結婚します。

ロンドンで暮らすのが夢だというグレゴリーのためポーラは、叔母の事件以降空き家になっていたロンドンの叔母の家に戻ることを決意します。

引っ越しの日、久々に叔母に育てられた家に入ったポーラは、ピアノの楽譜の間にセルギウス・バウアーという差出人からの手紙を見つけますが、それは事件の2日前に届いた手紙でした。

手紙を見たグレゴリーは態度を一変させますが、すぐに気を取り直して過去のことは忘れなきゃダメだと言い、叔母との思い出の品を全て屋根裏部屋に片づけさせます。

家には、耳の遠い年配女性エリザベスと若い女性ナンシーの、二人の使用人がいました。

ポーラの身の回りでは、ブローチや絵、時計がなくなったり、部屋のガス燈の明かりが小さくなったり、屋根裏部屋から音が聞こえたりと、奇妙なことが次々と起こります。

グレゴリーは、物がなくなるのはポーラが隠しているからだと言い、二人の使用人は、家で変わったことは何も起こっていないと言います。

グレゴリーは事あるごとにポーラを叱責し、ポーラは次第に自分がおかしくなったのではないかと思うようになっていきます。

一方、ロンドンの警察では、迷宮入りしているポーラの叔母殺害事件の捜査を、ただ一人続ける刑事ブライアンがいました。

歌手である叔母の大ファンでもあった彼は、ある日街で叔母そっくりのポーラを見かけますが、彼女の様子がおかしいことに気づきます。

ブライアンは、ポーラの周辺を捜査していくうちに、夫グレゴリーが夜に度々外出して、隣家から自宅の屋根裏に忍び込むという奇行を行っていることをつかみます。

これはおかしいと考えたブライアンは、グレゴリーの外出中にポーラ宅を訪問します。

ポーラは最初はブライアンを警戒しますが、彼が叔母のファンであることが分かると信用していきます。

ブライアンはポーラに、グレゴリーが屋根裏部屋で明かりをつけて何かをしているので、この部屋の明かりが小さくなったり音が聞こえたりするのだと説明します。

初めて自分がおかしいのではないと他人に認めてもらい、ポーラは喜びます。

さらにブライアンは、グレゴリーの書斎から無くなったはずのブローチ等を見つけ、さらにポーラが引っ越しの日に見つけた手紙の差出人セルギウス・バウアーこそが、グレゴリーの本名だと説明します。

セルギウス・バウアーはすでに結婚していて、彼こそが叔母殺しの真犯人でした。

彼の狙いは叔母が持っていた宝石で、宝石を手に入れるためにポーラと結婚したのです。そしてブライアンは、宝石は屋根裏部屋にあるのだろうと言い、屋根裏部屋へ向かいます。

入れ違いで帰ってきたグレゴリーは、部屋の異変に気づいてポーラを詰問します。

そこにブライアンがやってきて、格闘の末、グレゴリーは取り押さえられます。

ポーラは、助けてくれと懇願するグレゴリーに対して、自分はあなたが言うようにおかしい女だからと取り合いません。

グレゴリーはブライアンに捕らえられ、警察へと連行されていきました。

主要キャスト&スタッフ

監督 ジョージ・キューカー

舞台監督から1929年に映画界入りしました。俳優から忘れがたい演技を引き出し「俳優の監督」と言われました。「マイ・フェア・レディ」(1964)でアカデミー作品賞、監督賞を受賞しています。

製作 アーサー・ホーンブロウ・Jr.

原作 パトリック・ハミルトン

脚本 ジョン・バン・ドルーテン

   ウォルター・ライシュ

   ジョン・L・バルダーストン

撮影 ジョセフ・ルッテンバーグ

音楽 ブロニスラウ・ケイパー

 

出演

グレゴリー  シャルル・ボワイエ

フランスのエスプリを漂わせた美男スターで、1930〜40年代にかけて女性ファンの人気を博しましたが1978年に自殺します。

 ポーラ  イングリッド・バーグマン

演劇学校を卒業し、映画デビューします。「間奏曲」(1936)で注目され、ハリウッドに招かれます。1950年に妻のあるロベルト・ロッセリーニのもとに走り、アメリカ映画界から追放されますが、1956年に復帰します。「ガス燈」(1944)と「追想」(1956)でアカデミー主演女優賞、「オリエント急行殺人事件」(1974)で同助演女優賞に輝いた大女優です。ロッセリーニとの間に生まれた、イザベラ・ロッセリーニも女優として活躍しています。

ブライアン警部  ジョセフ・コットン

名作「第三の男」(1949)で演じた知的で渋い二枚目が持ち味です。「ジェニーの肖像」(1948)でヴェネチア映画祭主演男優賞を受賞しています。

ナンシー  アンジェラ・ランズベリー

エリザベス  バーバラ・エヴェレスト

映画「ガス燈」 の評価は?

第17回アカデミー賞(1944年対象)で、

・作品賞
・主演男優賞(シャルル・ボワイエ)
・主演女優賞(イングリッド・バーグマン)
・助演女優賞(アンジェラ・ランズベリー)
・脚色賞
・美術監督賞(白黒)
・撮影賞(白黒)

の7部門でノミネートされ、

・主演女優賞
・美術監督賞(白黒)

の2部門を受賞しています。

以上のことからこの作品の評価は高いと言っていいでしょう。

映画「ガス燈」の背後に隠された真実

映画「ガス燈」は、ガスライティング手法の由来となっています。そして、その背景には、夫と妻の間の力の不均衡がありました。以下、それらについてまとめました。

ガスライティング手法の起源

ガスライティング手法の起源は、1944年の映画「Gaslight(邦題:ガス燈)」と言われています。映画の中では、夫のモラハラによって追い込まれる妻の様子が描かれています。

具体的には、繰り返し「お前の思い違いだ」と否定し、妻の現実認識を狂わせることで、精神を追い詰めます。「ガス燈」の映画では、夫が家の中の物を動かしたり奇妙な音をたてたりして、それを妻に指摘されると、「お前の思い違いだ」と否定していました。

以上から、実際にあったり起きていたりすることを、「うそだ」「想像に過ぎない」などと否定し続け、「正気を失った」と相手に思い込ませるマインドコントロール的な言動を、この作品にちなんで、専門家らが「ガスライティング」と呼ぶようになりました。

映画の背景:当時の社会と女性の立場

この映画の時代背景は、19世紀末、ガス燈のある時代のロンドンです。部屋の中の灯りがガス燈だった時代です。

当時の社会は、夫婦関係における夫と妻の間には、力の不均衡がありました。そして夫婦関係における夫と妻の間の力の不均衡を利用し、精神的に追い詰めるようなことが、しばしばあったのではと推測されます。

現代では、夫の法的な責任を問うことで抑止を目指す動きが出てきました。英国では2015年の法改正で、家族を心理的に操るあるいは威圧する言動をすることは、5年以下の懲役となるとしています。

ただ、英国では、訴追される件数はその一部にとどまっています。立件が難しい理由として、ほかの虐待と異なり一つの行為をもって加害とみなせず、証拠集めが難しいことがあげられます。

現代でも夫の責任を問うことが難しいのですから、当時の社会では、泣き寝入りが普通だったのではないでしょうか。

映画「ガス燈」のよくある質問

「ガス燈」は2回映画化されたんですか?

その通りです。2回映画化されています。
1度目は、1940年にイギリスで制作されたもの、2度目は、1944年にアメリカで制作されたものです。イングリッド・バーグマンがアカデミー主演女優賞を受賞した後者が、一般にはよく知られています。

 

「ガス燈」に似ている映画はありますか?

以下の映画が似ています。
『炎のいけにえ』(MACCHIE SOLARI 1974) 監督 アルマンド・クリスピーノ
『セルフレス/覚醒した記憶』(Self/less 2015) 監督 ターセム・シン
『マラソンマン』(Marathon Man 1976) 監督 ジョン・シュレシンジャー

 

「ガスライティング」が心理的虐待を表す用語として使われるようになったのはいつからですか?

「ガスライティング」が心理的虐待を表す用語として使われるようになったのは、1970年代後半以降です。

まとめ

今回は、映画「ガス燈」についてまとめました。

映画「ガス燈」は、イングリッド・バーグマンアカデミー主演女優賞を受賞した有名な作品です。

また、「ガスライティング」が心理的虐待を表す用語として使われるようになったことでも有名です。

そんな映画「ガス燈」について興味を持った方は、ぜひ鑑賞してみて下さい。